Dementia
医療と介護にまつわるコラム
認知症について
2010.4.21
言語聴覚療法からみた認知症~認知症などを伴ったコミュニケーション能力の低下した方への取り組み
以下は、2010年4月17日に行った認知症講演会での、講演内容です。一部スライドがないとわからない部分だけ画像を取り入れています。
1、導入
みなさん、こんにちは。私は当院のリハビリテーション科で言語聴覚士をしております。今回、「言語聴覚療法からみた認知症」ということでお話させていただくことになりました。私は言語聴覚士という仕事をしている割には話すことはあまり得意ではありません。しかも、このように大勢の方たちの前でお話させていただくのは初めてで、かなり緊張しています。本当に、これほどのたくさんの方たちがこの部屋に一堂に会しているのを見るのは初めてです。手狭な中、つたない話を聞いていただくのは少々心苦しいところですが、どうぞよろしくお願いいたします。
今日こちらにいらしているみなさんは、ケアマネジャーさんやヘルパーさん、近隣の地域の方たちかと思いますが…。みなさんにおうかがいします。“言語聴覚士”という資格名を聞いたことがありますか?
「リハビリ」と聞いてイメージするのは歩く練習をしたり動かなくなった手や足を動かしたりするものかと思いますが、言葉のリハビリ、コミュニケーション能力を取り戻していくリハビリもあるのです。始めに少し言語聴覚士についてお話させていただきます。
言語聴覚士とは ※言語聴覚士協会HPより引用
私たちはことばによってお互いの気持ちや考えを伝え合い、経験や知識を共有して生活しています。ことばによるコミュニケーションには、言語、聴覚、発声・発音、認知などの各機能が関係していますが、病気や交通事故、発達上の問題などでこのような機能が損なわれることがあります。言語聴覚士はことばによるコミュニケーションに問題がある方に専門的なサービスを提供し、自分らしい生活を構築できるよう支援する専門職です。また、摂食・嚥下の問題にも専門的に対応します。
ことばによるコミュニケーションの問題は脳卒中後の失語症、聴覚障害、ことばの発達の遅れ、声や発音の障害など多岐にわたり小児から高齢者まで幅広く現れます。言語聴覚士はこのような問題の本質や発現メカニズムを明らかにし、対処法を見出すために検査・評価を実施し、必要に応じて訓練、指導、助言、その他の援助を行います。このような活動は医師・歯科医師・看護師・理学療法士・作業療法士などの医療専門職、ケースワーカー・介護福祉士・介護支援専門員などの保健・福祉専門職、教師、心理専門職などと連携し、チームの一員として行います。
言語聴覚士は医療機関、保健・福祉機関、教育機関など幅広い領域で活動し、コミュニケーションの面から豊かな生活が送れるよう、ことばや聴こえに問題をもつ方とご家族を支援します。
私は主に、脳卒中後のコミュニケーション能力の低下、摂食・嚥下面に問題のある方に対してリハビリを行っております。
本日は認知症の方のコミュニケーション能力低下への取り組みについてお話をさせていただきます。
2、認知症とは
まず、少々教科書的な話になりますが認知症についてのお話を簡単にさせていただきます。
誰でも年をとると頭の働きは若い頃とは違ってきます。みなさんの脳は自然な老化をしていき、話そうとしたことを度忘れしてしまって「あのー」「えーと」「あれさ、ほら…」という言葉が会話の中で多くなり、若い頃であれば一度聞けばパッと覚えられたことが覚えるのに時間がかかります。これはいわゆる「年のせい」ですね。
一方、認知症とは脳に病気が起こって神経細胞の異常により脳神経のはたらきがうまくいかなくなる状態です。そのために「年のせい」とはちがう、度忘れではすまない、あとになって体験したことをまったく思い出すことができなくなったり、通常であればあり得ない判断力の低下を起こします。無意識にできていたはずのちょっとした日常生活の動作が難しくなります。たとえば、買い物に出たときのお金の計算などです。また、見当識障害といって日時や場所が曖昧になったり、わからなくなります。症状が進行すると人物や道順に関する見当識障害が出現し、家族の顔を見ても家族と認識できなくなることや、通いなれた道でも迷子になったり、ある程度の期間を過ごしている病院や施設の中で自分の居場所がわからずうろうろと歩き回り自分の部屋以外の所に入る場合があります。
認知症は記憶する力、思い出す力、現在の日時・場所、周囲の人や状況を判断する力、思考をめぐらす力、今まで生活した中で得られた知識と結びつけ様々な判断や行動をしていく一連の知的な働きが次第に難しくなり自立した生活ができなくなっていく過程をたどります。みなさんにはあまり馴染みのない言葉ですが、これを「認知機能の低下」といいます。
認知症の方はこの認知機能の低下だけではなく、意欲の低下、感情的な変化や精神症状としての言動が起きやすくなります。家庭でも病院・施設でも介護する側が悩まされる部分です。
3、事例
【症例1】80歳代女性、脳梗塞と脱水症の診断で入院されました。入院当初は無表情で、こちらが声をかけても反応がなかったり、時に反応があっても強い口調で「何さ!」と言う程度でした。暴言が出ることもありコミュニケーションをとるのは難しい状態の方でした。
スライドを提示します。



リハビリを行う中で一番念頭に置いたことは、表情の変化⇒感情の変化を出すことでした。人間の感情は「喜怒哀楽」という言葉で表現されます。この方の場合、「喜怒哀楽」の中の「怒」の部分しか表に表せなくなっていました。おそらく「哀」の部分もあったのでしょうが悲しみもこちらから受け取れるのは「怒り」で、「喜び」「楽しみ」の感情はほとんどみられなかったように思います。表情の硬い方は、自分自身の思いをうまく表すことができない場合が多いので少しでもご本人が思っていること、感じていることをスムーズに相手に伝えられるようになってもらいたいと思いました。時間を共有すること、コミュニケーションがとれるよう、働きかけをしていこうと考えました。
点滴、薬などの医学的な治療、病棟スタッフの関わり、理学療法・作業療法のリハビリテーション、頻繁にお見舞いに来てくださっていたご家族のお力などにより、少しずつの変化ではありますがコミュニケーション面は良い方向へ進むことができたと思います。
4、認知症の方とのコミュニケーション
コミュニケーションをはじめるにあたって、みなさんは、普段誰かと話をするときにどのような位置、距離でお話をしていますか?
極端に遠いと、当たり前に話はしづらいですし、極端に近すぎてもやはり話はしづらいと思います。
認知症の症状が軽度でもコミュニケーション能力は低下していることがあります。
まずはコミュニケーションが少しでもとりやすくなるよう、環境を整えましょう。
① 自分がリラックスしていること。
自分が緊張しているとその緊張は相手に伝わり、適切な関係づくりが成立しないことがあります。
② できれば事前に相手の視力や聴力がどの程度か、メガネや補聴器を使用しているのか把握しておきます。普段使っているのであれば、それらを使ってもらうようにしましょう。
③ 注意が集中できるように相手にわかりやすい位置、適度な距離感を保つ。
軽く手を伸ばせば相手に触れられる位置に座るようにしましょう。真正面は相手にわかりやすいかもしれませんが、相手の方に圧迫感や緊張感を与えやすいので、90度の位置にいるほうが、お互いに緊張感が少なくてすむと思います。
④ 認知症の方は、状態が軽い方でも注意や集中の持続が難しい方が多いので、適当に身体に触れるなどスキンシップをとってコミュニケーションを図ると注意や集中の持続がしやすいと思います。相手の方がこちらの話を聞けている状態なのかどうかを知ることが出来ます。
⑤ 認知症の方は、一度に多くの情報を受け取り、理解することが難しく、こちらが話していることをスムーズに理解してもらえないときがあります。一度にベラベラとたくさんの情報・質問は相手の混乱を招きますので、ゆっくりはっきり伝えていくことが大切です。
「○○さん、ご飯おいしかった?何が一番おいしかった?おなかいっぱいになった?」ではなく、「○○さん、ご飯おいしかった?」答えてくれたら、「何が一番おいしかった?」答えてくれたら、「おなかいっぱいになった?」それぞれ、ひとつの質問に対してひとつの答えですむようにすると、混乱を招くことは少なくなるでしょう。
⑥ 話すときには、普段より話すスピードを落とすこと、少し低めの声で穏やかな声色をつかうことで相手に伝わりやすくなります。
⑦ 相手が脈絡のない話をしそうになったときは、こちらで相手が話していることを要約したり、相手の話の最後の部分を復唱してみてください。話の方向性を確認することで、話の内容を補うこともできてコミュニケーションを円滑にはかりやすくなります。
⑧ 普段より抑揚をつけて話をすること、身振り手振りを用いて視覚的な情報を用いて話をすることで相手に内容が伝わりやすくなります。
5、認知症の方への言葉かけの注意点
① 自分が言われて不快な言葉かけをしないこと。
時折、「○○ちゃん」「○○くん」という呼び方をしている場面を見かけます。呼びかけている方としては、愛着を持っているつもりなのかもしれませんが、そこには相手に対する敬意はあるのでしょうか?呼ばれるほうの気持ちとしてはどうなのでしょうか?自分がもしも施設や病院の職員とも認識することが困難な知らない相手にいきなり「○○ちゃん」と呼ばれる気持ちってどうなのでしょう?
② 認知症の方の反応を受け入れること。
「何、変なことやってるんだろう」と思うようなことでも、それは認知症の方が言葉では伝えられない“困っているんだ”“何か不都合があるんだけど自分ではどうにもできない、何とかしてほしい”という、理由がある中での行動なので拒絶したり叱責することはせずにその人が何を困っているのか、歩み寄る気持ちで接していくことが必要になります。
もしも自分がその立場だったら?
常に、もし自分が逆の立場だったらどう感じるかを前提に言葉かけをしていくことが大切だと思います。
6、認知症かな?と疑うポイント
① 常日ごろ行っている「ちょっとしたこと」がうまくできなくなったとき。
どうしても「たまたまかな?」と思ってしまうところですが、もしかするとそれが予兆であることも考えられます。脳卒中の前ぶれもそのときはわからなくても「今にして思うと」ということがしばしばあるので、日常生活の中で、ちょっとしたことがスムーズにできなくなることがあれば、病院を受診して検査などを受けたほうがいいかもしれません。
② 今までよりも疲れを口にする、疲れた様子が多くなったとき。
記憶力や判断力が低下している脳で日常生活や仕事をこなしていくのは、私たちが想像する以上の困難さを伴います。
7、認知機能検査
入院されている、全身状態がある程度安定している方、外来で依頼のある方に対して、CTやMRIの画像診断のほかに、こちらで認知機能検査を行っています。
年齢、今日の日付、ここがどこなのかなど、こちらから質問して答えていただくもの、丸、三角、立方体、家など見本を見ながら図形を書いてもらうもの、時計の絵を描いてもらうもの、さいころ型の積み木を使って見本を見ながら同じ模様を完成してもらうもの。これらの検査を行っております。時間は人によって多少ちがいはありますが15分から30分くらいかけて行っていきます。
もちろん、画像の結果とこの認知機能検査の結果をみて認知症の症状があるかないかを院長が判断していくので結果はもちろん大事なのですが、私のほうでじっくり見ているのは、部屋に入ってきたときの様子、検査を行っているときの様子です。表情の変化はあるか、あいさつができるかどうか、こちらの話していることや検査の指示理解がすんなりとできるか、理解してもらうまでに何度か繰り返し指示することが必要なのか。また、検査は普段やらないことをお願いすることが多いので、精神的な部分での耐久性が必要となります。検査中、集中力が最後までもつのか途中で途切れるのか。普段やり慣れないことに対してどれくらい対応できるのかなど、実際に取り組んでいる様子が大事になります。検査を受けるということでたいていの人は緊張しています。検査が終わると皆さん一様にほっとした表情になって「開放された」雰囲気が伝わってきます。そのたびに、こちらは皆さんに頑張っていただいて、面倒なことをお願いしているのだなぁ、と申し訳ない気持ちになることもしばしばです。
8、認知症の方にリハビリを行っていく際に見ていること
まず最初に見るのは、その方の顔つきです。その次に話す様子。まず言葉が出てくれるかどうかも気になるところです。
認知症の方は表情の変化が乏しい方が多いです。また、話し言葉がボツボツと抑揚を伴わない話し方をしている方もいらっしゃいます。声が小さい方も多いです。みなさんに共通してみられるのは口の動きが非常に小さいということです。口の動きが小さいままにお話をしていれば、おのずと声も小さくぼそぼそとした話し方になります。
仕事をして、毎日人とおしゃべりをしているような人でも顔の一部分しか動かしていなくて顔の筋肉ってリラックスできていないことがしばしばです。顔の筋肉は「表情筋」と言うこともあって、コミュニケーションには必要不可欠な筋肉です。表情筋をたくさん動かして、毎日を心豊かに過ごしていければいいなぁと思います。
私たち言語聴覚士は、「ことばのリハビリ」だからといって、ひたすら「あいうえお」などを言ってもらっているわけではありません。そんなことをしたところで何の効果も得られないでしょう。対象者がどのような刺激であれば適切に受け取れるのかを把握し、適切に受け取れる刺激を入力することから始め、コミュニケーションがとれるような状態になるよう土台作りから行っていきます。徐々に段階を上げてコミュニケーション、言葉のやりとりにつなげられるようにすることを目指してリハビリを行っています。
9、おわりに
認知症を呈した方に携わっていくのは医療的な観点から医療スタッフが関わっていくのはもちろんですが、一番身近に関わっているのはご家族、特に一緒に生活しているご家族です。もしも、自分の家族が認知症の、認知症疑いの診断を受けたら、今すぐ必要にならなかったとしても介護保険の申請をすみやかに行っていただきたいと思います。自分たちだけで認知症の家族のお世話をするのは身体的・精神的に限界がきてしまいますので、ぜひ積極的に地域で利用できるサービス、社会資源を利用していただきたいと思います。
地域で利用できるサービスって何だろう、そのサービスを利用するにはどこでどのような手続きが必要となるのかなど、まだまだご存知ではない方も少なくないと思います。みなさまの疑問にお答えできるよう、本日は相談コーナーを設けております。そのほか医療相談、介護相談、認知症相談、リハビリ相談の各コーナーを設けておりますので、このあとの院長の講演が終わりましたら、ぜひお気軽にお立ち寄りください。
これで私の話を終わらせていただきます。長い時間、ご清聴ありがとうございました。
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