Healthcare
医療と介護にまつわるコラム
病気と健康
2007.11.2
がんとコレステロール値の関係が論議を呼んでいます
2024年5月に見直し、「今では誰も口にしないことではあるが、つい20年前には、まことしやかに学会で発表されていた事実」として残すことにしたものです。
医療に携わる者として非常に興味深いのは、 「がんによる死亡率が最も高かったのはコレステロール値が160mg未満の人で、最も低かったのは280mg以上の人だった」 という報告です。 これを基に、「コレステロールが少ないとがんにかかりやすい、むしろ多いほうががんになりにくい」と説明するドクターやマスコミ関係者もいらっしゃいます。 しかし、この報告、もうちょっと良く推理してみる必要がありそうです。 ということで、この先は、推理好きの医者の独り言、何の「根拠もない医学的意見」と割り切ってお読みください。
まず注目したいのは、この報告は「死亡率」について書かれているということです。つまりがんになった人がその後、どういう状態なら死亡する危険が高くなるか、というものです。 似たような報告いくつか揚げられています。
①がんによる死亡はコレステロール値160mg未満で最も多く、240mg以上で最も少なかった。総死亡率(調査対象における死亡者の割合)も160mg未満より240mg以上の人の方がずっと低い。
②コレステロール値が220mg以上でがんではない約5万人を対象に、低下剤を約5.4年間投与した調査では、コレステロール値が低くなるほど死亡が増えた。180mg未満に下がった人は、240mg以上280mg未満の人に比べ、総死亡率が2.5倍、がん死亡は3倍以上だった。
この➁の報告などは、注意して読まないと、がんではない人を対象にしたのだから、コレステロールが180mg未満の人のがん死亡率が高かったということは、がんになりやすいということだと勘違いしてしまいます。 最初に取り上げた報告も含めてこれら3つの報告は、いずれも「死亡率」を取り上げたもので、「発生率」については何も触れておりません。 つまり、がんになった人のその後について、コレステロール値が180mg未満になっていたがん患者さんのほうが、死にいたる危険が高かったというふうに読むのが正しいということです。 「がんになったら、コレステロールが低くなり過ぎないように気をつけましょう」ということです。 では、なぜ、コレステロール値が比較的低いがんの人の死の危険度が高くなるかということですが、そもそもコレステロールは、細胞膜など生体膜の大切な構成成分なので、コレステロール値が低いと、がんの進展も早くなるでしょうし、感染症にもかかりやすくなると思われます。また、コレステロールは、体内のステロイドホルモンの原料でもあります。コレステロール値が低いと免疫力が落ちて、ストレスにも弱くなります。やはりがんの進行や感染症を併発する機会が増えるのは当然かもしれません。
つぎに、280mg以上の高コレステロール値の人でがん死亡率が最も低かったというデータは何を意味するかということですが・・・。 おそらくこれは、高脂血症によって血管閉塞性の疾患(冠動脈疾患)で死亡する率が高くなってがんが直接死因にならなくなるということでしょう。別の調査では160mg未満と260mg以上では同様に総死亡率が高かったともいいますので、がんで死亡するよりほかの疾患で死亡するほうが先ということでしょうね。
それでは、コレステロールとがんの「発生率」はどんな関係になっているのでしょうか? 結論から言いますと、確かな因果関係はわかりません。わからないから、上記のような短絡的な結論がまかり通るのだと思います。
ちなみに、ドーナツの成分表示で話題となったトランス脂肪も、血中のコレステロールを上昇させるなど心臓血管に悪影響があることはわかっていますが,がんの頻度や生存率との関係はまだ不明です。ただし次のことは言えます。
脂肪が多い食事はカロリーが高い傾向があり,肥満に関与する可能性があり,結果的に幾つかの部位でのがんの頻度の増加や再発のリスクの増加そして多くの部位のがんで生存率が低下する可能性があります(体重過剰になることが,多くのがんの再発のリスクを高め,生存の可能性を低下するという研究成績が増えてきています)。
最後になりますが、今後着目したい事柄は、「総コレステロール値が高めとされる220~260mg程度の人が、元気で長生きだ」という事実があるということです。「高血圧症、糖尿病などの因子がなければ、脳梗塞、脳出血などの脳血管障害、心筋梗塞や狭心症などの虚血性心疾患などの発生は決して高くはない」「高血圧症や糖尿病もなく、頚動脈の超音波検査でも動脈硬化の所見はありません。煙草を吸われるわけでもありません。ですから、あなたはコレステロールが少々高くても大丈夫ですよ」とおっしゃるドクターもいるそうです。
もしそうなら、毎日の診療姿勢を変更しなければなりません。実はこれとても、まだ十分な解析ができているとはいえません。60代70代の高齢者の人たちが欧米型の食事になった期間は短いです。つまり「死亡率」に高脂血症の持続期間が十分に反映されていないといえます。果たして、欧米型の食生活の長い現在の30代40代の人たちにも「高めのコレステロール値のほうが長生きだ」といえるかどうか、これは疑問です。実際には、心筋梗塞が確実に増えるだろうとの大方の予測があるのです(今は事実そうなっています)から。
いかがでしょうか? 自分ではかなり核心に迫る名推理だと思うのですが、最後まで読んでくださった皆様はどう推理されたでしょうか?
by T
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