Journal
医療と介護にまつわるコラム
くどくど言わずに…
まずは一献
ダイアモックスという薬・・・
もう2ヶ月は経ったでしょうか・・・
数ヶ月前に急に右半身に麻痺が出現してすぐに回復したが、それから、お風呂上りなどにしびれが起こったり言葉が思うように出なくなったりする、と言って外来を受診した患者さんがいらっしゃいました。
頭部のMRI検査をしたところ、左脳に比較的小さな(いわゆるラクナ梗塞より大きい)脳梗塞のあとが見つかりました。
しかし、MRIで認めるこの脳梗塞の後遺症では、その後も繰り返している痺れや言語障害(失語症)は説明できません。
そこでMRA(MRアンギオグラフィー、MRアンギオとも呼ばれます)を行ってみました。
左の中大脳動脈という、側頭葉や頭頂葉の主たる部位に血液を送っている動脈の主幹部(いわば本管)が閉塞していることがわかりました。
こんな根元で脳の動脈が突然閉塞したら、こんなことではすまなかったはずです。これこそまさに脳卒中で、突然右半身麻痺になり倒れるか椅子から崩れ落ちるかしたでしょうし、言葉がしゃべられなくなったでしょうし、なんといっても救急車で搬送されなければならなかったでしょう。
そうならずに一過性の、軽い症状(いわゆるTIAだったのかもしれません)で済んだということは、このMRAで得られた所見はそれより前から時間をかけてできたものだということです。どういうことかといいますと、中大脳動脈が徐々に詰まっていく間に、血液の供給が落ちてきた脳にはほかの動脈から血液をまわしてもらう道筋ができたということです(側副血行路といいます)。
よく「バイパスができた」という風にいわれますが、たとえ正規の循環ルートでなくても、バイパスからの血液循環(側副循環といいます)が十分なら、それは特に治療して新たなルートを作る必要はありません。側副循環が十分なら、その後の症状出現の繰り返しは起こらないはずです。この患者さんの場合に問題となるのは、その後も一過性の症状出現を繰り返しているということです。
側副循環が十分ではないのではないかという疑いがもたれ入院精査をお勧めしました。
入院していただいてどうするつもりだったのか?
まずは、DSAという脳血管撮影を行って、側副循環の状態を画像で確認したかったからです。
もうひとつは、脳血流量など、脳循環の様子を調べたかったからです。
DSAというのは、血管の形や走行を写真にしたものです。血液がどんな動脈の中を流れているかを調べることはできますが、脳に十分な量の血液を送っているかは調べられません。それを調べるには別の検査が必要です。
この脳血流量測定の検査にダイアモックスという薬が使われます。
実は、側副循環に限らず、脳循環が不良な部分の脳動脈というのは、十分な血流を確保するために最大限に血管が拡張しています。血管を最大に広げて、脳に何とか血液を供給しようと頑張っているわけです。こうした動脈にはもう広がる余裕はなく、当然血流をさらに増加せよと指示されても「もう無理~」というわけです。
ダイアモックスという薬は、健常な脳動脈を拡張して血流を増加させる作用(50%も増加します)があります。だから、ダイアモックスを使って脳血流を調べると、健常な脳の部分ではダイアモックスを使う前よりも脳血流は増えていることがわかり、先ほどの、最大限に脳動脈が拡張してしまった部分では脳血流は増えないという差が生まれます。
ダイアモックス負荷試験と呼びますが、この検査で、脳循環の予備能力がないことがわかると、この患者さんは新しい血行ルートを作らないと問題を起こす危険が高いということになるのです。
すでにこの患者さんは2月以降何度か症状を繰り返しているわけですから、検査の結果は予測されます。しっかり検査を受けて、血行再建術を行うかどうか検討してもらうべきですが、その後の受診がありません。そろそろ、こちらから連絡をしないと不安です。
そんなことを考えていたら、ふっと思い出しました。
ダイアモックスといえば、急性高山病の治療に使われるということは、医者の間でもあまり知られていないようです。
逆に、僕のように知ったかぶりの、登山経験のない医者は、ダイアモックスを「登山の3種の神器」のように得意げに言いふらしてしまいます。
どうやら、登山愛好家の中にも僕と同じ輩がおられるようで、ありました、「正しい知識」を謳ったサイトが。これです…1・2・3
http://jacclimbingmed.hp.infoseek.co.jp/page-03-016.html
単独無酸素登頂記録を次々に記録している、若き登山家、栗城史多氏をご存知でしょうか。
http://kurikiyama.jp/profile.html
僕が有名人、特に畑違いの分野の方にお会いするチャンスなんてほとんど皆無ですが、栗城氏とは偶然にもお会いし、個人的にお話しする機会もいただきました。TVカメラとマイクも向けられましたが、それが流れたかどうかは定かではありません。
彼は、北海道医師会創立61周年の記念講演に招かれ講演されたのですが、その講演の後で感想を訊かれたのです。2年前のことです。突然カメラとマイクを向けられて、しどろもどろ、というよりも何も言葉にならなかったのを覚えています。その時に思い出したのが、「高山病予防にダイアモックス」だったというわけです。
その時幸運にも栗城氏と10分ほど立ち話をしました。
彼は勿論、ダイアモックスのことは御存じでした。でも、ご自分は使っていないとの答えでした。要するに、薬には副作用があると思うからとのこと。
高山病克服は馴れること、なのだと思います。
薬に頼らずそれをこなしてきたからこそ、無酸素登頂なる数々の偉業を達成してこられたのでしょう。
それでこそ、人間の限界に挑む、世界の栗城です。
栗城史多氏にエールを送ります。
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